ラブレター 〜愛を繋ぐ、愛で紡ぐ道後めぐり〜

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展示期間:2019.12.20 FRIー2021.2.28 SUN展示期間:2019.12.20 FRIー2021.2.28 SUN

作品紹介

4通目のラブレター

差出人:夏目漱石

白濱イズミが選んだ、夏目漱石による
妻・夏目鏡子宛の手紙の一部を展示。

設置場所:
道後温泉 空の散歩道 西側板塀MAP

差出人:夏目漱石

明治34年(1901年)2月20日
夏目鏡子宛

国を出てから半年許りになる。少々厭気になって帰り度なった。お前の手紙は二本来た許りだ。其後の消息は分らない。多分無事だろうと思って居る 御前でも子供でも、死んだら電報位は来るだろうと思って居る。夫(それ)だから便りのないのは左程心配にはならない。然し甚だ淋しい。山川から端書(はがき)が来た。先達て、是は年始状だ。菅からも年始の端書をくれた。其外に熊本の野々口と東京の太田と云う書生から年始状が来た。手紙は是丈だ

御前は子供を産んだろう。子供も御前も丈夫かな。少々そこが心配だから手紙のくるのを待って居るが何とも云ってこない。中根の御父っさんも御母さんも忙しいんだろう。

金巡りさえよければ少しは我慢もできるが、外国に居て、然も嚢中自か(ら)銭なしと来てはさすがの某も中々閉口だ。早く満期放免と云う訳になりたい。然し書物丈は切角来たものだから、少しは買って帰り度と思う。そうなると猶必逼(逼迫・ひっぱく)する。然し命に別条はない。安心するが善い。

段々日が立つと国の事を色々思う。おれの様な不人情なものでも、頻(しき)りに御前が恋しい。是丈は奇特と云って褒めて貰わねばならぬ。夫からの筆の事だの中根の御父っさんや御母さんの事だの御梅さんや倫(ひとし)さんの事だの狩野だの正岡だの山川だの親類や友達の事なんかを無暗に考える。其癖あまり手紙はかかない。先達大坂の鈴木と時さんへ一本出した。熊本の桜井へも出した。狩野大塚山川菅へ連名で出した。夫から中根の御母さんへ一本出した。是は此前の郵便で届くか事によると此手紙と一所に届くだろう。

おれの下宿は気に喰わない所もあるが先々辛防して居るよ。妻君の妹が洗濯や室(へや)の掃除抔(など)の世話をする。中々行届いたものだ。シャツや股引の破けたのだっては何にも云わんでもちゃんと直つ(し)て呉る。御前も少々気をつけるが善い。

湯浅だの俣野、土屋、抔にも逢う度、高知県の書生でよく来た男、一寸名前を忘れて仕舞たあの男抔の事も時々考へる。

おれの下宿には○○と云うサミュエル商会へ出る人が居る。此人はノンキな男で地獄の話より外は何も知らない人だ。此人と時々芝居を見に行く。是は一は修行の為だから敢て贅沢ではない。日本の人は地獄に金を使う人が中々ある、惜い事だ。おれは謹直方正だ。安心するが善い。

西洋は家の立て方から服装から万事窮屈で行かぬ。そして室抔は頗(すこぶ)る陰気だ。殊に倫執(敦)は陰気でいけない。昨日も三時頃「ピカーデレー」と云う所を通って居ると突然太陽が早仕舞いをして市中は真暗になった。市中は瓦斯(がす)と電気で持って居る騒ぎさ。

まだまだあるが是から散歩に出なければならぬから是でやめだ。

からだが本復したらちっと手紙をよこすがいい。

二月二十日
金之助

鏡どの
此手紙は明日の郵便で日本へ行く。郵便日は一週間に一遍しかない。